すずらんに幸あれ!





こんなにも、時が止まってほしいと願ったのは初めてだ。


──『放課後、ツラ貸せ』


私を見下ろしていたすずくんの低い声と表情が忘れられない。

地獄の放課後がやって来たわけだが、現在下駄箱付近にはすずくんの姿は見当たらない。

めるちゃんもアルバイトで先に帰っちゃったし、私も今日バイトか何か予定入れておけばよかった。

お弁当を届けに行った時『いらない』とか言われなくてホッとしたけど、どうしてあんな怖い顔をしていたのだろう。

せっかくお母さんがすずくんの分まで作ってくれたのに迷惑だったとか?

昼食は勝手に済ます主義だから余計なお世話だったとか?

すずくんの事情なんて知るわけがないし、『必要ない』って前もって言ってくれていたら私もわざわざお弁当なんて届けなかった。

お母さんも作らずに済んだはずだ。

逆に言い負かしてやりたい気持ちでいっぱいだが、殴られたくないのでツラを貸さずに今すぐ逃げよう。


「…おい」


"逃げる"一択が正しい選択だ───…。

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