すずらんに幸あれ!

魂が抜けそうになりながら半分くらいしか聞いていなかった私と、しっかり最後まで話を聞いていたすずくん。

すずくんの質問に、身に覚えがありすぎて、私は冷や汗を流した。

目の前の男の話を聞いて、そういえばそんなことがあったような…と思い出す。

彼の言う通り、私は去年の冬頃、知らない人にポケットティッシュとカイロを渡した記憶はある。

しかし、その相手がストーカー……じゃなくて、他校の人だとは思わなかった。


「…どうしよう、すずくん。事実すぎてどう答えればいいかわからない」


ストーカー男には聞こえない程度に、すずくんの耳元に口を寄せて、コソッと話すと「原因おまえかよ…」と怪訝そうな表情を向けられた。


「だ、だって泣いてたし、悲しそうだったから──…」

「花岡さん、少しよろしいでしょうか」

「あっ、はい…」


男は真剣な瞳で私を見据えた。


「今日は、花岡さんにだけ用があってこちらに足を運んだわけではありません」

「……へっ??」

「花岡さん、あなたはそちらの方が『彼氏』だとおっしゃってましたよね?」


彼氏ではないが、この男から逃れるために「そうです…」と頷いた。

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