すずらんに幸あれ!

すずくんの目が細められる。

嫌がっているのを察してくれたのかと思いきや、すずくんの指先が私の顎に添えられ、そのままぐいっと持ち上げられる。

互いに視線が絡み合い、ドクンッ…と心臓が音を立てた。


「だったら、おまえのファーストキスを最悪な思い出にしてやる」

「!?」


私はこの瞬間、小鳥遊鈴をいつか必ず地獄に落としてやると心に決めた。


「んぐっ…!?」


親指の腹で、ぐにゅっと唇を押し付けられる。

顔を彼の指で固定され、身動きがとれず、逃げられない状況となった。

ただすずくんを見つめることしかできなくて、ものすごく整った顔が徐々に近づいてくる。

すずくんは、少し首を傾げて、親指の上から自分の唇を重ねた。


────…ん??


気づいた時には、すずくんの端正な顔が離れていて。


「おい、ストーカー野郎。キスしたぞ、これでいいんだろ」


何でもない素振りで男にそう言うと、ストーカー男は憂いを帯びた表情で「はい…」と頷いた。


「……花岡さん、どうかお幸せに。今日をもって、僕は花岡さんのことを諦めます…」


「さようなら、お元気で…」と、男はすんなりと諦め、去って行く。


「……」


呆然と立ち尽くす私を放って、すずくんは歩き出した。
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