垢玉
第一話
最近、垢玉が流行している。
といっても、世間一般の誰もが認知しているようなポピュラーな感じのものではなくて、新宿の歌舞伎町や、原宿にいるような一部の若者たちの間で、隠れた人気を誇っている。
垢玉は、入れ墨のようなものである。
ただ、肉体に入れるのではなく、肉体から出すのだ。ゆっくり、時間をかけて掘り師と呼ばれる専門の人に、垢玉の抽出をお願いするのだ。
どのように取り出すのかと言うと、掘り師は最初、客の身体に専用のクリームを塗る。すると、塗られた人の身体から垢が染み出てくる。この垢は、身体を擦った時や汚れているときなどに出るような通常の垢である。しかし、その本質はもっと別の、僕から言わせてもらうとスピリチュアルな作用が働いたとしか思えない程の特別な垢なのだ。
そしてその垢の抽出が終わると、掘り師はヘラで垢を集める。垢の採集が終わると、垢の大きさに合わせたペンダントを用意して、それを詰め込む。
相場に決まりはない。抽出された垢玉の大きさによって価格は変動する。数千円で済む場合もあるし、時には数百万円の出費がかさむ人もいるくらいだ。前日に風呂に入ってもいいし、入らなくてもいい。身体の清潔さは垢玉の大きさに比例しない。
僕はこの垢玉の存在に魅力を感じている。機会があれば僕も施術を受けたいと考えている。でも、ただ一つ不安なことがあって、それはもし僕から取れた垢玉がめちゃくちゃ大きかったらどうしよう。という心配である。
そうなるとお金は払えない。また、ペンダントにして持ち運ぶこともままならない。あの有名な政治家は、取れた垢玉が数百キロにも及ぶせいで、ガレージいっぱいが垢玉まみれになっているらしい。そういう噂もあるほどだ。
で、あるから金欠の僕は、うかつに手を出せない状況でいる。加えて、いまは就職活動で忙しい時期なのだ。あいにく内定が一つも無いせいでかなり焦りを感じている。大学には卒業論文を書きに行かないといけないし、近いうちに企業との面接がある。このように自由が少ない時期だからこそ、より神秘的な垢玉に惹かれるのかもしれない。