垢玉
「ちょっと自信に繋がりました。ありがとうございます」
彼女ははしゃいでいる。僕の醜悪な垢を掻き出して、喜んでいる。マムシがとぐろを巻くように、僕の垢玉も、黒く濁って、渦を巻いている。千切れたミミズの最期の足掻きの仕草のように、苦しそうな表情をしている。
思考を抉るような得体の知れない拒絶感が僕を包んだが、それは彼女たちの前では殆ど快楽となってしまった。
今日はこれで終わり、とリサさんが言う。窓の外は紺碧に近い色をしていた。僕は全身にじっとりと汗をかいていたので、それに気が付いたリサさんは僕にタオルを渡してくれた。香水の匂いがした。
「ありがとうごさいます」
「どういたしまして」
脈拍は早かった。僕は服を着て、立ち上がる。
垢玉を首にぶら下げて、藍ちゃんと一緒に夜の歌舞伎町を足早に歩いた。
「しばらくはリサさんの元で修行を行おうと思うの。まだ、私は垢玉の掘り師として未熟だから」
彼女は生き生きとした表情だった。僕は数メートル歩く度に、首にぶら下げてある垢玉を眺めない訳にはいかなかった。
僕は自分の垢玉の魅力に取りつかれてしまった。自分の背中から取れた醜悪な塊を一目でも見ると、僕はハンマーで殴りつけられたかのような衝撃を受けたし、藍ちゃんも僕の垢玉に興味があるようだった。
それにしても、あんまりにも垢玉を眺めすぎて、前方不注意とならないように、気をつけながら僕たちは新宿の街を歩いた。駅まで行って、僕たちは別れる。藍ちゃんの女神のように綺麗な顔が、僕に微笑んでくれる。
僕はそれから、しばらくの間、垢玉のペンダントを首から外すことはしなくなった。