まあ、食ってしまいたいくらいには。
振り向きざまに、べっと舌を出す。
「わたしの血を飲もうなんざ百年早いんですよ。残念でしたぁ」
いまの絶対、ムカつく顔になった。
自分でも思う。
愔俐先輩に対して強気すぎるかも、って。
だけどこの人はめったに怒らない。
感情まかせに怒鳴ったりしない。
いまだって、ただじっと見つめてくるだけ。
なんだけど──
「……なんか言ったら、どうなんですか」
なに考えてるかわかんないんだってば。
ここまで本心が見えない人ってそういないよ。
視線ごと振り払うように愔俐先輩を押しのける。
少し歩いて後ろを振り向いたとき、もうそこに愔俐先輩はいなかった。