まあ、食ってしまいたいくらいには。


「えっと……こんなところにいたんです、ね」


うわっ、しまった。

この言い方じゃまるで奈良町先輩を探してたみたいだ。


絶対、「死ね」とか「消えろ」って言われる。

わたしが相手なんだから「地獄に落ちろ」くらいは言われるかもしれない。


いやだなぁ、と。

そこまで考えたところでそれはわたしが前に愔俐先輩に吐き捨てた言葉だったことを思い出した。

今度謝ろう。

もう忘れてるかもしれないけど。


奈良町先輩がなにかを言おうとする気配した。

だから身構えたのに、なんの言葉もかけられなくて。

わたしに興味なんてないように、ふい、とまたテレビのほうを向いてしまった。




あ、あれ……? それだけ?



いつもボロクソに言われてるだけに拍子抜け。


なんとなく立ち去るタイミングを掴み損ねたわたしは、おもむろにテレビの画面を見つめた。


そこに映っていたのはやっぱり、




「……『オリヴァ・ツイスト』お好きなんですか?」


やめればいいのに、話しかけてしまった。


わたしから奈良町先輩に話しかけるのは初めてだった。



ひと呼吸おいて、



「べつに」


と返ってきた。


その言葉にはいつもの過剰な刺々しさは含まれていなかった。

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