まあ、食ってしまいたいくらいには。



ふたりで映画を観ました。

ちょっとだけど、普通に会話もしました。

その日から奈良町先輩の態度がやさしくなった。


……ら、よかったんですけどね。


全然、まったく、そんなことなかった。



「奈良町先輩。わたしを女と呼ぶのはやめてください。これでも甲斐田桃という名前があってですね」

「うるせーんだよクソ女。死ぬまで喋んな」


親指って仕舞ったほうが強いんだっけ。


自分の拳をみつめていたら、肩にぽんと手を置かれた。

振り返るとそこには三栗くんがいた。



「桃、喉渇いてない?」

「それより親指って──」


差し出した手をそっとつつまれる。

親指はもちろん、仕舞う間もなかった。



「ちょっと買いにいこうか」

「え、な」

「ついでにみんなの分も買ってきますねー」


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