まあ、食ってしまいたいくらいには。
行き場をなくした500円をお財布のなかに仕舞いながら、三栗くんが迷わずミネラルウォーターのボタンを押すのをぼんやりとみつめる。
「栄養補給ブロックって、よく食べるの?」
「私はあんまり食べないかな。どうして?」
「前に愔俐先輩が持ってるのを見たから。やっぱり、フォークはみんなそれを食べるのかなって」
ボタンを押す三栗くんの手が止まった。
「……愔俐さんが?ブロックを?」
「え、うん。よくわからないけど、フォーク専用のがあるんでしょ?これくらいの黒い箱で、商品名もかいてないやつ。……三栗くん?」
信じられないことを聞いたように、三栗くんは考え込んでしまった。
どうしよう、なんだろう。
なにかまずいことでも言ってしまったのかな。
「あ、あの……」
「そういえばもうすぐ夏休みだね。私や嵐がいなくても課題はちゃんとやりなよ、桃」
なんともわかりやすく話を逸らされた……って、あれ?
「ちょっと待って、三栗くんや芽野くんがいないって……どういうこと?」
みーんみーんとセミの鳴き声がきこえてくる。
夏はもうそこまで迫っていた。
────地獄のような、夏休みが。