まあ、食ってしまいたいくらいには。
「……愔俐先輩。わたしは、わたしはね、普通に生きたいんです。人並みの生活を送って、人並みに友だちを作って、人並みの恋をしたい」
嘆いたって仕方のないことだってある。
それより、どうしようもないことを恨むより、もっと大切なことがあるから。
「しあわせになりたいって、そう思うことは、罪だと思いますか?」
愔俐先輩が目を細めてこちらを見つめてくる。
なにを考えているのかわからないその瞳。
わたしよりもずっと賢く、強かに生きているであろうその人を。
今だけは理解してみたいと、少し、ほんの少しだけ思った。
いつか、かけられた言葉を思い出す。
『僕たちはケーキに生まれた時点でハッピーエンドになれないんだよ』
それは自分の運命を、そして世界を恨む彼女の言葉。
あのね、言われたときはうまく答えられなかったけど、じつは半分だけわたしも同意見なんだ。
「ハッピーエンドなんて望まない。人並みのしあわせを得られたらそれでいいんです」
──もしかして、愔俐先輩もそうなんじゃないですか。
なんて、そんな言葉は最後まで吐き出せなかった。