まあ、食ってしまいたいくらいには。
だけど愔俐先輩はそれを見越したように、わたしの腰をぐっと抱いた。
一気に近くなる距離に怯みそうになるけど、わたしは真正面から見つめ返す。
わたしたちは契約した。
だから、対等な関係なんだ。
怯えなくてもいい、大丈夫……
──────わたしはまだ生きている。
ふっ、と。
初めて愔俐先輩が笑った。
「契約成立だ」
うわ……。
ドン引きするくらい悪人の笑み。
絶対この人、ケーキ何人か殺ってるよ。
「甲斐田桃」
「……はい」
なんでわたしの名前を知ってるんだろう。
そう思ったけど、なにも突っこまないでおいた。
「生徒会へようこそ」
「はい?」
ちょっと待て、そこは突っこむぞ。
そんな契約内容じゃなかった。
「……生徒会?」
返ってこない答えの代わりに、ふわっと足が地面から離れる。
愔俐先輩────生徒会長、によって抱き上げられたわたしは、いつもとは違って見える世界に、そして普段味わうことのない浮遊感に。
そのときだけは彼が天敵のフォークであることを忘れて、「ひぇぇ……」と情けない声をあげながら必死にしがみついたのだった。