まあ、食ってしまいたいくらいには。


ようやく、血の気が引く思いで振り返る。


「ご、ごめ、どうしようごめん。わたし、また何かまずいこと……」

「いや、甲斐田はなにも──」


ちらり、芽野くんが困ったように奈良町先輩に視線を向ける。



「……ま、あいつにも色々あるっつーことだな」

「いろいろ、」

「わかってるだろうが、余計な詮索はすんなよ」

「しませんよ!……しませんよ、そんなこと」


「生きてる限り、人は大なり小なり何かしら抱えるもんだよ」


お前だってそうだろ、って。

それだけ言い残して瞼を閉じてしまった。


残されたわたしと芽野くんは、どちらからともなく顔を合わせる。

嘘がつけない彼は、ばつが悪そうに視線を逸らした。



「……奈良町さん、授業始まりますよ」

「うるせえな、わーってるっつの」


ちょっと目ぇ瞑っただけだろ、とソファから億劫そうに立ちあがる。


「え、奈良町先輩そのままサボるのかと思った」

「あのなあ、俺の学費は全額税金で賄われてんだよ。サボれるわけねーだろカス」

「カスでごめんなさい」



さっきまで秋晴れだった空は、いつの間にか汚れを含んだような雲にじわじわと侵されている。


……天気、大丈夫かな。



芽野くんは。
もしかしたら、奈良町先輩や愔俐先輩も。

三栗くんが明日、学校を休んでなにをするのか知っているのかもしれない。


彼がまだわたしに見せていないであろう、
その仮面の下も。
















「……ええ、はい。そうですね。まだ生きてます。────殺したいですよ。私が殺したい。はやく、今すぐにでも……自分が狂ってしまう前に」


今度こそ、この手で。


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