まあ、食ってしまいたいくらいには。
三栗くんがわたしに触れてくるのはいつものこと。
だけど、いままで、こんなことはなかったのに。
口許を腕で隠したまま首を横にふる。
「き、キスはだめ」
「絶対?」
「絶対」
今度は首を縦に、強く。
あまりにもはっきり言い切ったからか、逆になにかに火がついたように食い下がってくる。
「喰まれるより痛くないのに?」
桃、痛いの嫌いでしょ、と。
自分なりに隠していた気でいたことさえも、三栗くんにはお見通し。
「……それでも、ダメなの」
静寂。
1,2,3,4……
「そっか」
三栗くんの顔がようやく離れていく。
わかってくれた。
ほっとしていると、腰を抱き寄せられた。
「じゃあ、私こと好きになって?」
どうしてそうなったんだろう。
遠くで「ぎゃっ」という悲鳴をぼんやり耳にしながら、わたしは目の前の整った顔立ちをひたと見つめた。