まあ、食ってしまいたいくらいには。
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「……あ」


とぼとぼ寮に帰ってくると、めずらしいことに愔俐先輩と奈良町先輩が一緒にいた。

何かを話し合っていたようで、いつものように競り合う気配はない。


早い段階でそれに気づいたわたしは。


つかの間の和睦を邪魔しないように。

そして自分もあまり見られたくない状態だったから、こっそりと踵を返したとき。


愔俐先輩に目敏く気づかれてしまった。

すると視線を追った奈良町先輩もわたしを見て、怪訝そうに空を見上げる。



「雨なんか降ってたか?」

「や、……そうなんですよー通り雨。先輩たちは建物の中にいたから気づかなかったんですかね」

「お前、ゲリラ豪雨並に濡れてんじゃん」

「あー……実はゲリラ豪雨も来たんです」


あまりにも苦しい嘘がすぎる。

だけど、言えなかった。


見知らぬ女の子に自販機で120円のいちごミルクを投げつけられました、なんて。


どうすることもできないので、拭けるところだけハンカチで拭いて、あとは全身べたべたのまま帰ってきました。……なんて。


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