まあ、食ってしまいたいくらいには。
すると、
彼女はぱちぱちと何度か瞬きをして。
なにかを思いついたように、悪戯っぽく笑った。
「それじゃあもしももを食べて合体したら、あなたが"私"って言ってもおかしくないね」
なにを思いついたかと思えば。
ふ、とつられるように笑ってしまう。
「一生ならないよ、そんなことには」
強がりでもなんでもなく、心からそう思っていた。
彼女がケーキだと知って早いものでもう数年。
一緒にいることを選び、最も危惧していた彼女への食欲は、予想していたよりもずっと湧いてこなかった。
あとあと知ったことだが、フォークがケーキを前にしても理性を失わない、食欲に支配されないのは、だいぶレアなケースらしい。
身近な関係でお互いを信頼し合っていると稀にあること、だとか。
つまり、彼女も僕といることに常日頃より充足感を得ている、という事実が、ただ嬉しかった。