まあ、食ってしまいたいくらいには。



てっきり遠くまで行かなきゃないと思っていた愔俐先輩の要求した飲み物は、なんとすぐ近くの自販機の片隅に売られていた。



「愔俐先輩、見逃してやーんの」


……いやまあ、わたしも知らなかったけど。

おそらく品替えされたばかりなんだろう。


もちろん水もあるし、わたしの好きな紅茶もあった。


電子マネーという画期的な決済方法も使いこなせないわたしは、ちゃりんちゃりんと小銭を投入していく。


当たりが出ればもう一本のルーレット。

今日こそは当たりますようにと惰性で祈る。


すると最後の一回で表示された数字は666…6。



「えっ、やったっ!」


はじめて当たった!


ひとりでわあわあ興奮しながら、冷めやらぬまま同じ紅茶をもう一本選ぶ。



「っと、いえーい生きててよかったー……ん?」


人数分の飲み物を持ってきていたエコバッグに詰め込んで、帰ろうとしたとき。


パァン、と。

自販機の奥にある曲がり角の向こうから、軽やかな銃声のような音がした。



「……あ。そういえば、ここを曲がった先に……」


一定間隔で聞こえてくる音に吸い寄せられるように歩を進めると。

予想どおり、そこには弓道場が広がっていた。


半分に切ったような建物に立っていたのは、ひとりの男子生徒。



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