まあ、食ってしまいたいくらいには。


「……ありのままを受け入れることじゃない?」



それでも彼女の前では格好つけたくて、気付いたらそんなことを口にしていた。



「ありのまま、ってどういうこと?」

「だから、相手の良いところも悪いところも丸ごと受け入れる、ってこと」

「その人を丸ごと受け入れられたら、愛してるってこと?」

「……そういうこと」


たぶん、という言葉は言わないでおいた。



「ふーん。……ふぅぅん」

「なにニヤニヤしてんの」



さっきまで落ち込んでいたくせに。

打って変わっていまはなんだか嬉しそうだ。




「ふふ。あのね、わたし────」



そのとき、彼女のからだが前に揺れた。

とっさに口を覆ったのが先か、えずいたのが先か。


びしゃ、と湿った音がした。




「えっ……?」



さっきまで笑っていたその目が戸惑うように大きく見開かれている。

僕もなにが起きたかすぐに理解できなかった。



毒々しいほどの赤い塊は、それこそまるで果実のようだった。

彼女の口からこぼれ落ちた血が、白い制服を染めている。



「……どーしよ、汚しちゃった」



違う。

思い出した。


これは熟れた桃の匂いなんかじゃない。


すでに癌に侵されていた祖母に抱きしめられたとき、──祖母から感じた匂いだった。




「……っ…なんか、喋ってよぉ……」



いまにも泣き出しそうな彼女が、泣き笑いのような顔をこちらに向ける。


甘くどろりとした匂いがいつまでも残っていた。




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