まあ、食ってしまいたいくらいには。


だけどこんな状況では、皮肉にも取れる。

きっと敬郷先輩もそう受け取ったんだろう。



「俺に友だちは……もう、いないよ」



立ち去る寸前、目が合った。

わたしの顔を見て、ほんの少し驚いた顔をする。


そうして敬郷先輩がいなくなったあと、愔俐先輩の身体がぐらりと揺れて。


血溜まりの中心に、膝をついた。


この人が膝をつくところなんて、きっとわたし以外に見た人はいない。



……それほどまでに。


この人は徹底して、誰にも弱さを見せてこなかった。


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