まあ、食ってしまいたいくらいには。
ゲームセット
愔俐先輩が目覚めたのはそれから数日後のこと。
お見舞いに来ていたわたしが自分用のりんごを剥いていたら、その音さえも睡眠の妨害だといわんばかりに目をあけた。
うわっと思わず声が出る。
「寝起きの顔こわっ。他の人には見せないほうがいいですよ」
「お前の前以外で眠ったりしない」
「……そうですか」
あれ、こんな感じだっけ愔俐先輩。
といっても、ここは病院で。
すでに芽野くんも三栗くんも、奈良町先輩でさえも。
愔俐先輩の寝顔ばっちり見てるんですけどね。
だけど今日のお見舞いはわたしだけ。
美形がつどってる!と病院がちょっとした騒ぎになったから、迷惑にならないように配慮した結果。
愔俐先輩がお皿に並ぶりんごをひとつ手に取った。
「絶対、人前では食べないと思ってました」
「さすがに腹が減った」
りんごを食べる姿は、当たり前だけど他の人となにも変わらなかった。
愔俐先輩だってりんごを食べるし、流れている血も赤い。
わたしはこのひとの一体なにを怖がっていたんだろう。