まあ、食ってしまいたいくらいには。
我慢していた涙がぽろりとこぼれ落ちた。
「死にかけた人が、なに言ってんですか……」
愔俐先輩が目を覚ましたとき、本当はすぐにでも抱きつきたかった。
震える手で、投げ出されたその手を握る。
わたしよりもずっと、ずっと大きな手。
この手で、わたしは何度も助けられたんだ。
「……生きてて、よかった……っ」
祈るようなかたちで、合わさった手に額を押しつける。
ひぐ、ひぐ、という間抜けな声が静かな病室に吸い込まれていく。
「俺を殺せるのは退屈だけだ」
冗談かそれとも本気で言っているのか。
だけどそれは妙な説得力があり、わたしは何度もうなずいた。
「助けてくれてありがとう……愔俐せんぱい」
巡回にやってきた看護師さんに「患者が目を覚ましたのなら早くナースコールを押せ」と怒られるまで、わたしはえんえんと泣きじゃくっていた。
だから、このときは気づかなくって。
あとになって、ふと、そういえばと気づいたんだ。
わたしばかりが一方的に握っていると思っていた手の指先に、気のせいかと思うほどの微かな力が込められたことに。