まあ、食ってしまいたいくらいには。
「もしかして……前に、足元にも及ばないって言ってたのは」
「ちょうど、桃ちゃんと同じ学年だったよ」
だった、という過去形。
忘れられない味というのは、おそらくその人のこと。
「しょうがなかったんだ」
「先輩」
「あのときは、ああするしか」
「敬郷先輩。どんな世界でもどんな境遇でも人を殺していい理由にはなりません。罪なんです。人を殺すことは、罪なんですよ」
するとそれまで無反応に近かった瞳に。
じわりと怒りの色が滲んだのがわかった。
「じゃあどうしたらいいんだ」
だけどもう気力なんてないように、パイプ椅子に凭れたまま力なく訊いてくるだけだった。
「僕は、俺たちはどうしたらよかったのか教えてくれよ。なあ。僕は、あのとき、どうしたらよかったんだ」
一人称が混ざっていることにも気づいていない。
急に、目の前にいるのが小さな男の子のように思えた。
「……わかりません。それでも、生きていくしかないんだと思います」
ケーキやフォークなんて関係ない。
みんな、何かしら抱えてる。
「たとえ生きにくい世界だったとしても、理不尽なことばかりだったとしても、必死に生きるんです。だから──」
そのとき、時間が来てしまった。
看守の人に促されながら立ちあがるわたしに、敬郷先輩がつぶやいた。
「やっぱり、きみを食べてみたかった」