まあ、食ってしまいたいくらいには。
『頑張ってもだめなときはだめなんだ。ここは物語の世界じゃない、現実だ。そう都合よくいかないし、バッドエンドになることだって充分にありえる。というか、』
いっそう沈んだ声で続ける。
『僕たちはケーキに生まれた時点でハッピーエンドになれないんだよ、桃』
画面の中の彼女はとても悲しそうにしていた。
今でもずっと部屋から出られないでいる彼女は、もう何年も日の光を浴びていない。
じっとこちらを見つめるその姿はひどく痩せ細っていた。
わたしがかける言葉を探していると、
『個室には鍵がついてるんだろうな』
ちょっとだけ調子を取り戻したように向こうから訊ねてくれたから、ほっとする。
「ついてるんだけど、壊されるんだよね、素手で」
『ゴリラとフォークの混血がいるのか?最悪じゃないか』
「それに悪魔の血も混ざってる」
彼女はもう一度、最悪じゃないか、と言った。
『もはや何色の血なんだ、それは』
「さあ……銀色だったりして。 ね、そんなことより好きな数字教えて?7億当たったら山分けしよーよ。一緒にモルディブにでも行こう」
にやりと笑えば、彼女は呆れた顔をした。
呆れた顔をしたけど、ほんの少しだけ笑ってくれたんだ。
『お前は本当にバカで、呑気で、どうしようもなく前向きだな』
ずっと暗いところにいるからなのか。
眩しそうに目を細めた彼女は、そっとまぶたを閉じたのだった。