まあ、食ってしまいたいくらいには。
部屋に入れることに少しの抵抗はあったものの、まさかさっきの今で襲われたりしないだろう、と。
そう判断して、三栗くんを部屋にあげた。
「ここでいい?」
「あ、うん、ありがとう」
部屋の隅っこにダンボールをそっと下ろしてくれる。
割れ物があるかもしれないことを配慮してくれたんだ。
そういうところ、優しいし気が利くなって思う。
入口で突っ立っていたわたしは、密室にならないようにドアを開けていた。
だけど三栗くんが「入ってきなよ」と手を伸ばしてきたから。
「いきなり食べたりしない。私を信じて」
「う、ん。……わかった」
おそるおそる部屋に足を踏みいれる。
なんにもない殺風景の部屋はアパートよりも広くて。
だけど、自分ちじゃない匂いがした。
前のアパートにとくに思い入れがあったわけじゃないけど、新しい環境というのはどうしてこんなにも胸をざわつかせるのだろう。
差し出された腕にそっと手を近づけた瞬間、
「……バカだね」
「っ、え」
ぐるんと視界が回転して、三栗くんの下に組み敷かれていた。
背中を柔らかいものが包む。
ベッドだとわかるのに少し時間を要した。
なに?
わたしがびっくりしたのは、べつのこと。
……いまの切なくて、苦しそうな声は、なに?