まあ、食ってしまいたいくらいには。
だけどすぐに遅れて恐怖がじわじわとやってくる。
密室であること、わたしを押し倒しているのがフォークであること。
三栗くんだとわかっていても怖いものは怖いし、それに。
なんだか今の三栗くんは、三栗くんじゃないみたいだった。
「どこが甘くないんだよ。甘いよ、桃」
伏せられた睫が邪魔をしてどんな目をしているのかわからない。
だけど感情的には見えなくて、むしろ落ち着いている様子だったから。
だからわたしも様子をうかがうように、強く抵抗せずにいたのかも。
気心の知れたクラスメイトだから、って。
そんな感情は早く捨てなきゃいけなかったのに。
「どんな気持ちでいるか、だっけ?」
「っ、い……ッ、ぁ」
首筋に寄せられた唇が、ちり、とわたしの肌を焦がした。
ケーキだからか、それともただの性質か。
わたしは人よりも痛みに敏感だった。
「そんなに知りたいなら教えてあげる」
耳朶を打つテノールはいつもの陽気さを潜めている。
どこまでも平坦な、感情を押し殺したような声だった。