まあ、食ってしまいたいくらいには。


だけどすぐに遅れて恐怖がじわじわとやってくる。


密室であること、わたしを押し倒しているのがフォークであること。

三栗くんだとわかっていても怖いものは怖いし、それに。


なんだか今の三栗くんは、三栗くんじゃないみたいだった。




「どこが甘くないんだよ。甘いよ、桃」



伏せられた睫が邪魔をしてどんな目をしているのかわからない。


だけど感情的には見えなくて、むしろ落ち着いている様子だったから。


だからわたしも様子をうかがうように、強く抵抗せずにいたのかも。

気心の知れたクラスメイトだから、って。


そんな感情は早く捨てなきゃいけなかったのに。




「どんな気持ちでいるか、だっけ?」

「っ、い……ッ、ぁ」



首筋に寄せられた唇が、ちり、とわたしの肌を焦がした。


ケーキだからか、それともただの性質か。

わたしは人よりも痛みに敏感だった。




「そんなに知りたいなら教えてあげる」



耳朶を打つテノールはいつもの陽気さを潜めている。

どこまでも平坦な、感情を押し殺したような声だった。


< 44 / 236 >

この作品をシェア

pagetop