まあ、食ってしまいたいくらいには。
「カオ真っ赤にしながらなに言ってんの?!」
「この子の部屋どこ?誰か知ってる?」
「甲斐田さんってたしか寮生じゃなかったような」
「えっなに怖い怖いやめて、じゃあなんでここにいるの」
それからの記憶はもっとあいまいだ。
気がついたら、誰かに抱っこされていた。
顔のすぐ横からとくん、とくんって音がしている。
わたしの体がほてっているのか、触れあう肌は冷たくて。
気持ちいいのを求めるように顔を寄せながら、つぶやいた。
「やだ、帰りたくない、」
「……──────」
相手がなにか言った気がしたけど、女の子たちの声にかき消されてしまった。
きゃあきゃあ、まるでハリウッドスターが来日したときみたいな興奮を隠せない黄色い悲鳴。
も、あれば「嘘でしょ!?」「なんで!?」といった絶叫なんかも聞こえた。
もしかして……キアヌ・リーブス?
ちっ、と頭上のほうから舌打ちが飛ぶ。
あ違うキアヌじゃない。
じゃあ誰が、とまぶたを持ちあげることもできないまま。
それまでかろうじて繋がっていた糸がぷつりと切れてしまった。