まあ、食ってしまいたいくらいには。
「…………ハゲ?」
一瞬わたしが言われたのかと思った。
いやでもさすがにわたしもまだハゲてない。
もしかして愔俐先輩、妖精さん(おじさんの)とか見えてる?
……待って。
「こ、このぬいぐるみのこと?」
無言。
だけどたぶん、無言の肯定。
どええ、本気で言ってんのかこの人!
「いやこれアンパンマンですよ、アンパンマン!」
わたしの腕に隠れててよくわからなかったのかな。
そう思って愔俐先輩の前にずいと突き出したけど、怪訝そうな顔はより深まるだけだった。
「だから、アンパンマ……えもしかしてご存じない?」
「有名なのか」
「有名もなにも国民的キャラクターでしょ。なんのために生ーまれて、なーにをしーて生きるのか、こたえられなーいなんて、そーんなのはいーやだ……知らない?」
「知らない」
「おめでとうございます。間違いなく天然記念物ですよ愔俐先輩。あとこれはハゲてるんじゃなくてあんぱんですからね。アンパンマンは自分の顔をちぎってあげるんです。食べたら元気が出るんですよ」
「なるほど、ケーキみたいなものか」
「ケーキは食べたら元気が出るんですか?」
「自分でちぎれるということは痛覚はないんだな」
「ケーキは食べたら元気が出るんですか?」