まあ、食ってしまいたいくらいには。


危険人物から少しでも身を守るために、布団を引き寄せて体に巻いた。




「……痛覚がないかどうかはわかりませんよ」



もしかしたらアンパンマンだって痛みを感じてるかもしれない。


顔をちぎるときに痛みが伴っているかもしれない。




「それでも、困ってる人がいたら手を差し伸べるんです。我慢できるんです、アンパンマンは、つよいから」



いつもニコニコしてて、弱いものいじめをゆるさなくて。

人のために自分の体をも犠牲にできる、やさしいヒーロー。


このぬいぐるみはおばあちゃんにもらったんだ。

まだわたしがケーキだとわかる前に。




「ケーキだってわかったとき、一度、勝手に捨てられかけたんです。意地悪じゃなくて、わたしのためを思っての行動でした。さっき愔俐先輩も言ったように、ケーキとアンパンマンが似ていることに祖母も気づいたんでしょう。それでもわたしは泣きながら取り返しましたけど」


おばあちゃんに怒ったのは後にも先にもあのときだけだったっけ。


誰だって大切な宝物を捨てられかけたら怒るし、悲しくなる。


おばあちゃんがくれたものだから余計に悲しかったんだ。

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