まあ、食ってしまいたいくらいには。


ぎこちない手つきだった。

わたしの頬に触れるときも、湿布を貼るときも。


きっと怪我なんてほとんどしたことないんだろうな。

昔からよく怪我をしていたわたしとは正反対だ。


品行方正な芽野くんに施される手当てはとても新鮮で。

鼻にティッシュを押し当てたまま、じっとその顔を眺めてしまう。



……目が合わない。




「あの」

「悪い」


言葉を発したのはほぼ同時だった。



「え、大丈夫だよ、痛くないよ」

「……あんなことに巻き込んでしまって、悪い」

「あ、ああ。そっちか」


納得しかけたけど、すぐに思い直す。




「いや、いやいや、なんで芽野くんが謝るの」


あの一方的キャットファイトに芽野くんは関係ない。


もしかしてずっと申し訳なさそうにしているのはそれが理由?

だとしたら芽野くんが気に病む必要はどこにもないのに。

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