まあ、食ってしまいたいくらいには。
手当てをしてもらったあと、芽野くんと別れたわたしは自室で天井を眺めていた。
真っ白でシミ一つない天井はまるでケーキのメレンゲのようだった。
「よし」
ベッドに寝転がっていたわたしは、がばりと起きあがって。
カーディガンを羽織ったあと、財布をつかんで部屋をあとにした。
お目当てのものはぎりぎり買うことができた。
残りふたつだったそれをわたしは迷わず購入した。
行きを走っただけに、帰りも走る体力は残されていなかった。
歩いて帰路をたどるわたしを、まん丸に太った月が見下ろしている。
まだ色のうすい月はあと1時間もすれば夜空の支配者となる。
わたしはその瞬間を眺めるのが好きだった。
寮に帰ると、とある部屋のドアをノックした。
中から出てきたその人に、わたしはにこりと笑ってみせた。
「美味しいケーキはいかがですか?」