まあ、食ってしまいたいくらいには。


手当てをしてもらったあと、芽野くんと別れたわたしは自室で天井を眺めていた。

真っ白でシミ一つない天井はまるでケーキのメレンゲのようだった。



「よし」


ベッドに寝転がっていたわたしは、がばりと起きあがって。

カーディガンを羽織ったあと、財布をつかんで部屋をあとにした。



お目当てのものはぎりぎり買うことができた。

残りふたつだったそれをわたしは迷わず購入した。


行きを走っただけに、帰りも走る体力は残されていなかった。


歩いて帰路をたどるわたしを、まん丸に太った月が見下ろしている。

まだ色のうすい月はあと1時間もすれば夜空の支配者となる。


わたしはその瞬間を眺めるのが好きだった。



寮に帰ると、とある部屋のドアをノックした。

中から出てきたその人に、わたしはにこりと笑ってみせた。




「美味しいケーキはいかがですか?」

< 75 / 236 >

この作品をシェア

pagetop