まあ、食ってしまいたいくらいには。


「……すごいな、きみは」


素直に褒められ、えへへと頬をかく。



「昔からこれだけが取り柄でして」

「それもだが……いや、」


なにかを言おうとした芽野くんは、こう言い直した。




「一瞬、本当にケーキの味がした気がしたよ」

「ほんと?」

「ああ、甲斐田のおかげだ。……ひさしぶりに、何かを美味しいと思った」



それから芽野くんは教えてくれた。


中学3年生のときにフォークになったということを。


そのときに同級生の女の子を怖がらせてしまったことを。その子はケーキだったらしく、それ以来、ケーキに触れるのが怖くなってしまったことを。


世間でフォークは悪とされている。

フォークである自分を嫌いになるのにそう時間はかからなかった、と。


……2年、か。

まだ発現してからそんなに経っていないと思った。

きっとフォークとしては日が浅いほうなんだろう。


芽野くんはまだ受け入れられないんだ、自分がフォークになったことを。

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