まあ、食ってしまいたいくらいには。
「家族の中でフォークになったのは俺だけだった。幸い、身内にケーキはいなかったが……まだ幼い妹や弟は、いた」
怖がらせてしまうと思った芽野くんは、実家を離れることを決意したらしい。
そうして、それまで目指していた志望校を直前で変えて、遠く離れたこの高校を受験した。
「そこで俺は、玖桜さんと出会った」
「え、愔俐先輩?」
いきなり出てきたその名前にびっくりする。
あの鬼のように冷酷な瞳を思い出して、顔をしかめてしまう。
「もしかして芽野くんも愔俐先輩に脅されたとか?」
「いや、救われたよ」
「……??」
この学校に玖桜さんってふたりいるのかな?
芽野くんはそのときの話は詳しくしてくれなかった。
だけど忘れているわけではないようで、思い出すような横顔はどこか柔らかく。
……こんな顔もできるんだ。