まあ、食ってしまいたいくらいには。


「……なに笑ってんだてめぇ」


奈良町先輩がようやく顔をあげる。


そうして睨みつけるようにしていたのは、デスクでなにやら書き物をしていた愔俐先輩だった。

手を止めることもせず、愔俐先輩は無表情に呟く。



「いや?バカな犬ほどよく吠えると思ってな」

「あァ?誰がバカだって?!」

「吠える暇があればお前こそ仕事をしろ。決算書の提出がまだのようだが」

「うるせーな、俺には俺のやり方があんだよ。口出しすんじゃねぇ」

「どうでもいいが余計な仕事を増やしてくれるなよ」

「てめぇはいっかい過労で死んどけよ」



穴のあいた風船のように。

いきり立っていた気持ちがどんどんしぼんでいく。



……最初にここに来たときから、なんとなーく、そうかなーって思ってたんだけど。




「もしかして愔俐先輩と奈良町先輩って仲悪い?」


こそりと訊くと、


追加のコピー用紙を持ってきてくれた芽野くんが「水と油」と呆れたように息を吐く。


コピー用紙を受け取った三栗くんが「ハブとマングース」と面白そうに笑う。


なるほど、犬と猫か。

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