まあ、食ってしまいたいくらいには。
「……? あ、わたしの学生手帳」
「敬郷からだ。返し忘れた、と」
「ちょっと待って。そのためだけにドアを破壊されたってことですか?」
「なにか文句でも?」
「あるに決まってっ、……あるに、……いや、なんでもない、です…ん」
言外の圧力。
すみませんって言いかけたけどそれは耐えた。語尾がおかしくなったけど、なんとか耐えられた。
はあ……これじゃ割に合わないよ。
この人に得を求めようとするのは無謀だけど、それでもドア修理諸々の面倒くささったらない。
どこかで鬱憤を晴らしたくて、プライベートもクソもたったいまなくなったこの部屋にいる必要もなくて。
半ばひらき直りつつ、愔俐先輩にたずねた。
「この寮、テレビとかってあります?」
「娯楽室に共用のがある」
「大きいですか?」
「……」
「愔俐先輩?」
「自分の目で確かめればいい」