丘の上の大きな桜の木の下で、また会おう~After Story~
後日。

駅で待ち合わせて、宗匠と杏樹は旅行に出掛けた。
電車に乗り込む。

並んで座席に座り、杏樹が宗匠にペットボトルのお茶を渡す。

杏樹「ん」
宗匠「おっ!サンキュ!」

杏樹「………なんか…こんなの、久しぶり!」
宗匠「おっさんとは行かねぇの?」

杏樹「久史さんとは、旅行には行かないわね。
この前のみんなで行ったグランピングが初めてよ、久史さんと旅行」

宗匠「ふーん」

杏樹「基本的には、私のマンションでお家デートって感じかな?」

宗匠「不倫だもんな(笑)」

杏樹「またぁ?それ、やめない?」

宗匠「フフ…」

杏樹「……ったく…言われて当然だけど、いい加減しつこい!」

宗匠「だって、からかうの面白いもん(笑)」

杏樹「もう!」

宗匠「フフ…
そもそも、おっさんとはどうやって?
やっぱ、クラブ?」

杏樹「んー、知り合ったのはクラブ。
でも付き合ったのは、逆ナン」

宗匠「は?逆?」

杏樹「うん、私から声かけてナンパしたの。
久史さんが若頭になってすぐかな?
クラブに組長さんに連れられてきたの。
私、一目惚れしてさ。
“カッコいい~”って!
久史さんの席について接客したんだけど、全然!私に興味持ってくれなくて。
組長さんに連れられて、しかたなくだったみたいでずーっと嫌そうにしてて。
久史さんが、トイレに立った時に逆ナンしたの。
仕事終わりに、二人でお茶しませんか?って!」

宗匠「それいいのかよ、ホステスが」

杏樹「ダメだね」

宗匠「………」

杏樹「でも、好きになっちゃったんだもん!」

宗匠「そうゆうもん?」

杏樹「宗匠にはわかんないよね?
でも、単純に“欲しい”と思ったの。
最初は全く相手にしてくれなくて。
でもクラブには定期的に来てくれてたから、その度に誘い続けたの」

宗匠「じゃあ、それで?」

杏樹「うん。
久史さんもね、好意は持ってくれてたみたいなの。
でも赤王組の若頭で、既婚者。
今更、組を抜けることも、離婚もできない。
要は“愛人として”しか、私と関係できない。━━━━━━だから、拒否し続けてたみたい」

宗匠「“好きだからこそ”拒否してたってこと?」

杏樹「えぇ。
でも、私はそれでもよかった。
久史さんとたまにでも会って、二人だけで過ごせるならそれで……!」

宗匠「それで“幸せになれない恋”を選んだってわけか!」

杏樹「でも私は、幸せよ?
強がりじゃなく、本当に!
“寂しい”って思うことはある。
でも“辛い”とは思わない。
だから一生……このままで十分!」

宗匠「そうか…」

微笑む杏樹に、宗匠も切なく微笑んだ。
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