丘の上の大きな桜の木の下で、また会おう~After Story~
食事が済み、店を出る。

佐木「お嬢様、いつものお店に行きますか?」
鈴嶺の好きなブランドの店だ。

デパートに来たら、必ず寄っている。

鈴嶺「行きたいけど…」
佐木「けど?」

鈴嶺「一人は怖い」

佐木「え?それはどうゆう…」

鈴嶺「エレベーターも、エスカレーターも“嫌なこと思い出すから”怖い。
一人では乗りたくない」

佐木「あ…」
エレベーターは、江原。
エスカレーターは、知里を思い出すのだ。 
佐木「私もお店の前までお供しますよ?」

鈴嶺「でも、手は繋いでくれないでしょ?」

佐木「え?」

鈴嶺「いつもは、凱くんが手を繋いでくれてるから大丈夫だけど……
だから、佐木が手を繋いでくれるなら行きたい」

佐木「わかりました。
私で良ければ!」
そう言って、手を差し出した。

鈴嶺「いいの?
フフ…ありがとう!」
微笑み、佐木の手を握った。

全体的に小柄な鈴嶺。
その小さな手を握る、佐木。
柔らかくて、気持ちいい。

佐木「参りましょう!」
鈴嶺「うん!
―――――あ!凱くんには言わないでね?」

佐木「え?」
鈴嶺「私のトラウマ」

佐木「あ、はい」
鈴嶺「聞いたらきっと…凱くんが傷つくでしょ?
凱くんといる時は、沢山お話をして誤魔化してるの。
凱くんが気づかないように。
……………凱くん、とっても頭が良いから勘づくでしょ?」

佐木「………」
(そんなことを考えてたのか…)

鈴嶺は世間知らずで、ピュアな女性。
ある意味赤子のように、目の前にあるモノをそのまま受け止める。
警戒心がないので“疑う”ということをしない。

だから誤解されやすいが、何も考えてないように見えて、鈴嶺は鈴嶺なりに色んなことを考えているのだ。

エレベーターに乗る前。
深呼吸をした、鈴嶺。
佐木に「大丈夫ですからね」と声を掛けられながら、エレベーターに乗り込んだ。

エレベーター内で、階数の表示をジッと見つめている鈴嶺。
繋いだ手に力が入ってくる。

五階に着いて、エレベーターを下りた。
ホッと息をつく鈴嶺。

佐木「お嬢様、大丈夫ですか?」
鈴嶺「うん…ありがとう」

そして、ブランド店に向かった。
夏物の新作があり、ワンピースとスカートを購入した鈴嶺。

帰りも佐木を手を繋ぎ、今度はエスカレーターに乗り込んだ。
緊張しながらなんとか一階まで下り、駐車場に向かった。
< 126 / 141 >

この作品をシェア

pagetop