丘の上の大きな桜の木の下で、また会おう~After Story~
帰りの車内。

赤信号で止まり、後部座席に座っている鈴嶺をバックミラーでそっと見つめた佐木。

少し窓を開けているので、風が入ってきていた。
その柔らかい風に、鈴嶺の髪の毛が揺れていた。

佐木「……/////」
(綺麗だ…/////)
思わず見惚れる。

鈴嶺「佐木」
佐木「あ、は、はい!
も、申し訳ありません!」

鈴嶺「え?何が?」
佐木「え?あ…いや…」
見つめていたことがバレたのかと思い、慌てて視線を前に向け謝罪した佐木。

しかし鈴嶺はそのことに気づいてなくて、ただ単に話しかけたのだ。

鈴嶺「少し、遠回りして帰ろ?」
佐木「え?はい、かしこまりました」

鈴嶺「お家に帰っても一人だから」

佐木「………」
その時―――――佐木の頭の中に、ある考えが思い浮かんだ。


佐木「…………でしたら今日は、私がずっとお傍にいましょうか?」


鈴嶺「え?」
佐木「“凱吾様の代わりに”お傍にいます」

鈴嶺「――――――え?佐木?」


真っ直ぐ自宅マンションに帰り、鈴嶺と共に家に入った佐木。

佐木「夕食のご用意をしますね!」
鈴嶺「え?いいよ?私が――――」
佐木「滅相もございません。
お嬢様は、お寛ぎください!」

鈴嶺をソファに誘導し「ミルクティーを淹れてまいりますね!」と微笑んだ。

ある考え―――――今日だけでも、鈴嶺と二人っきりで過ごしたい。

そう思い、少し強引に入った佐木。
凱吾はいない。
今日くらい、鈴嶺を独り占めしてもバチは当たらないだろう。

ミルクティーを出し、ゆっくり飲む鈴嶺を見届けて夕食の準備をする。
佐木は、幸福感に包まれていた。

鈴嶺と二人っきりなこと、手の届く所にいることも。

鈴嶺「――――ん!美味しい!
佐木、お料理上手ね!」

佐木「恐れ入ります…!」

鈴嶺「フフ…凱くんみたい!」

佐木「え?」

鈴嶺「凱くんも、お料理上手だもん!
優しい味で、美味しい!」

佐木「………」
黙ってしまった、佐木。

鈴嶺「ん?佐木?どうしたの?」

せっかく二人っきりでいるのだから“凱吾”の名前は出さないでほしい。

佐木「お嬢様」
鈴嶺「ん?」

佐木「………」
鈴嶺「佐木?」

佐木「いえ!
食後のデザートは、何にしますか?
お見受けしたところ、林檎があるようですのでカットしてお出ししますね!
――――――あ!うさぎりんごにしましょうか?」

佐木は頭を横に振り、鈴嶺に微笑んだ。
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