丘の上の大きな桜の木の下で、また会おう~After Story~
鈴嶺と佐木の口唇が重なった。

鈴嶺は目を見開き、必死で佐木を押し返す。
鈴嶺「んーんーんー!!!」

佐木は、激情に包まれていた。

鈴嶺が必死にもがいているのがわかるのに、一度重なった口唇はもう…離すことができない。

それどころか、もっともっとと、欲が膨らんでいく。

夢中で貪り、漸く離す。
額をくっつけて、鈴嶺の口唇をなぞった。

佐木「お嬢様、好きです……//////」  

鈴嶺「ど…して…?」

佐木「ですから、好きなんです。貴女が」

鈴嶺「でも、私は凱くんがいい!」

佐木「わかってますよ」

鈴嶺「だったらどうして?」

佐木「貴女が、鈍感だからです」

鈴嶺「………」

佐木「鈍感で、警戒心がなくて、全ての人間が“善”だと思っている。
どうせ貴女のことだから、私の気持ちなんて気づいてなかったんでしょ?
私が貴女を、どれ程想っているのか。
―――――私が貴女を、一人の女性として愛していることも」


鈴嶺「……………知ってるよ」

真っ直ぐ佐木を見上げ、淡々と…でもどこか切なさを感じる声で言った鈴嶺。

佐木「え……」
(嘘…だろ…?)

鈴嶺「佐木の気持ち、知ってたよ」

佐木「そ…だったのです、か…?」

鈴嶺「でも、私にはどうする事もできないでしょ?
私は、佐木の気持ちに答えてあげることが出来ないんだから」

佐木「お嬢様…」

鈴嶺「もし佐木が、私の傍にいることが苦しいなら…凱くんに言って執事辞めてもいいよ。
パパとママに、お屋敷に戻してもらうようにお願いする。
もし宝生の屋敷が嫌なら、他の所を紹介してもらえるようにパパに取り計らってもらう。
佐木のしたいようにして?」

(違う!そうじゃない!
そんなこと、望んでない!!)
佐木「いえ!私は、貴女のお傍にいたいんです!」

鈴嶺「いてくれるの?」

佐木「はい!これからも、お嬢様と凱吾様のお世話をさせてください!
――――――お嬢様、申し訳ありません!
貴女を傷つける暴挙を……」

佐木はポケットからハンカチを取り出し、鈴嶺に差し出す。
佐木「これで、お口をお拭きください!」

鈴嶺「ううん、いい。
その代わり、一つ約束して?」

佐木「はい」

鈴嶺「“凱くんには言わないで”」

佐木「え?」

鈴嶺「ね?
わかるでしょ?
凱くんが知ったら、どうなるか」

佐木「はい…かしこまりました」

佐木はギュッと目を瞑り、丁寧に頭を下げた。
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