丘の上の大きな桜の木の下で、また会おう~After Story~
佐木は、呼吸を整えて電話に出た。

佐木「はい」

凱吾『単刀直入に聞く』

佐木「は、はい!」

凱吾『鈴嶺に何があった?』

佐木「え?」

凱吾『鈴嶺の様子が、明らかにおかしい。
何かあったに違いない。
お前なら、知ってるだろ?』

佐木「………」

正直に言うべきか迷う。

“凱くんには、言わないで”

凱吾『佐木!!』

佐木「はい!」

凱吾『言え!!』

佐木「何も…凱吾様が心配されるようなことはありません」

凱吾『お前は、僕をバカにしてるのか?』

佐木「滅相もございません」

凱吾『僕がどれだけ鈴嶺を見てきたか、お前だって知ってるだろ!?』

佐木「はい、もちろんですよ。
でも本当に、大したことではありません」

凱吾『“大したことでない”かどうかは、僕が決める』

佐木「え?」

凱吾『そもそも、鈴嶺と僕の間に“大したことでない”ことは存在しない。
鈴嶺の周りで起こること全てに、意味がある。
どんなに小さくて、くだらないことでも…僕にとっては“重要なことだ”
お前のものさしで決めつけるな!』

佐木「怖い夢を見られたそうです」

凱吾『は?』

佐木「お一人では寂しいとおっしゃったので、今日は先程までお嬢様のお傍にいさせていただきました。
夕食を召し上がられて、少しソファでうたた寝されたお嬢様が怖い夢を見られたらしく、しかもその夢に私が出てきて、更に襲われそうになったそうです。
たまたまその時に、私が起こしてしまったのでかなり怖がらせてしまいました。
夢とはいえ、襲われそうになった人間が目の前にいたので。
ちょうどまたそこに、凱吾様からお電話がありまして…」

凱吾『―――――もういい。わかった』

淡々と(少しでも動揺すると、凱吾が勘づくので)本当のことと嘘を折り混ぜて話した佐木。

それを凱吾は信じたのかわからないが、そう言って通話を切った。

ふぅーと大きく息を吐く。
佐木「大丈夫…だろうか…」

大丈夫ではないだろう。
もしかしたら、もう…鈴嶺の傍にいられなくなるかもしれない。

佐木は、不安を抱えながらその日を終えた。


そして次の日の朝。
凱吾が帰って来た。

凱吾「ただいま!鈴嶺ー!」
玄関で、呼びかけた。

すると、パタパタ…と鈴嶺が中から駆けてきた。
鈴嶺「凱くーん!!おかえりなさーい!!」

両手を広げる凱吾に、おもいきり抱きついた。
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