丘の上の大きな桜の木の下で、また会おう~After Story~
凱吾「ん?」

鈴嶺「昨日ね、ワンピースとスカートを買いに行ったの。
その時に―――――」

凱吾「鈴嶺、大丈夫だったの?」

鈴嶺「え?」

凱吾「鈴嶺、あのデパートはエレベーターもエスカレーターも怖くて手を繋がないと乗れないでしょ?」

鈴嶺「へ?し、知ってたの!?」

凱吾「当たり前でしょ?
鈴嶺、乗ると必ず震えてるし、必死に気を紛らわせるために僕に話しかけるでしょ?」

鈴嶺「バレてたんだ……」

凱吾「うん。
鈴嶺のことなら、大抵のことはわかるよ?
ずっと、鈴嶺だけを見てきたから」

鈴嶺「その事を、知られたくなくて…
佐木にも黙ってもらってたの。
でも昨日、佐木についてきてもらったけど、やっぱり怖くて…
その事を考えてたら、また震えてきて…」
凱吾「そう…」

鈴嶺「ごめんなさい、心配かけて…」
凱吾「ううん」 

凱吾の表情から、まだ納得していないのがわかる。
でも鈴嶺も、絶対に本当のことを言うつもりはない。

鈴嶺「………」
凱吾「………」

鈴嶺「………」
凱吾「………」

しばらく沈黙が続いて………

凱吾「鈴嶺」
鈴嶺「何?」

凱吾「もうこれ以上聞かないから、一つだけ教えて?」

鈴嶺「ん?」

凱吾「鈴嶺にとって、佐木は何?」

鈴嶺「え?」

凱吾「僕には、鈴嶺だけなんだ。
鈴嶺がいれば、本当に何もいらない。
鈴嶺が僕の傍から離れないでいてくれるなら、何でも出来るし、どんなに納得いかないことでも受け入れる。
もし佐木が、鈴嶺を“傷つけていたとしても”
鈴嶺が許せって言うなら、許すし受け入れる。
―――――だから、教えて?
鈴嶺にとって、佐木は何なの?」

鈴嶺「………」

本当に凱吾は、鋭い人だ。

もちろん何をされたかはわからないだろうが、確実に鈴嶺と佐木の間にトラブルがあったことを確信しているのだろう。

淡々した冷たい視線が、鈴嶺を突き刺す。

鈴嶺「大切な人だよ」

凱吾「は?
大切?」

鈴嶺「そうだよ。
物心がついた時から、ずっと傍で私を見守ってくれてる人だから!」

凱吾「………」

鈴嶺「――――――でも、凱くんは“私の全て”」

凱吾「え?」

鈴嶺「凱くんが“どんな人間でも”私は、凱くんがいい!
佐木は大切だけど、抱き締められたいのも、キスしたいのも、抱かれたいのも、全部…凱くんがいい!
凱くんじゃなきゃやだ!!」

凱吾「鈴嶺……
うん、ありがとう…!」

鈴嶺の真っ直ぐな言葉に、凱吾は嬉しそうに笑った。
そして、佐木に凱吾からメッセージが入った。


【お前が鈴嶺に何をしてたとしても、僕はお前を受け入れる。
その代わり、お前を絶対に放さない。
一生、僕と鈴嶺のために生きろ】

凱吾は佐木に、違う地獄を与えたのだった。
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