丘の上の大きな桜の木の下で、また会おう~After Story~
凱吾との通話を切り、杏樹は一人でバーにいた。

「あれ?杏樹?」

杏樹「ん?あ、宗匠だ」
宗匠「こんなとこで何やってんの?」

杏樹「見ての通り、一人で飲んでる」
宗匠「そりゃ、そうだが」
隣に座る、宗匠。

宗匠の飲み物が来て、杏樹のグラスをカチンと合わせた。
宗匠「おめでと」

杏樹「え………?」

宗匠「あれ?今日杏樹、誕生日だろ?
違ったっけ?」

杏樹「覚えてたの?」

宗匠「そりゃあ、な?
だって、10年前まで毎年みんなで祝ってたじゃん!」

杏樹「そうだけど……
…………てか、それズルい…」

宗匠「は?
祝いの言葉を言って、ズルいってなんだよ(笑)
失礼だな(笑)」

杏樹「今日、久史さんとお祝いだったはずなの。
でも、ドタキャンされちゃって」

宗匠「ふーん」
杏樹「興味なさそう」

宗匠「…………ショックだな。
わりぃ、なんて返したらいいかわかんねぇ」

杏樹「ううん。別に」

宗匠「………」
杏樹「………」

宗匠「………」
杏樹「………」

宗匠「…………俺、帰ろうか?」
杏樹「………や…」

宗匠「ん?杏樹?」
杏樹「ここにいて……?」
宗匠の服を少し掴み、見上げる。
宗匠は杏樹の頭をくしゃくしゃと撫で“パーッと飲むか!”と言った。

それからしばらく、楽しく飲みあかして不意に杏樹が言った。

杏樹「…………ねぇ…」
宗匠「ん?」

杏樹「宗匠は、さ…」
宗匠「うん」

杏樹「愛のないエッチ、できるんだよね?」

宗匠「………は?」

杏樹が、宗匠をジッと見つめる。

宗匠「鈴と杏樹以外ならな」

宗匠も、杏樹を真っ直ぐ見て答えた。

杏樹「なんで?」

宗匠「大事な女だから」

杏樹「はい?意味わかんなーい!」

宗匠「俺は愛情はないが、情はある。
鈴や杏樹のこと、大切に思ってる。
お前等を傷つけることはしない」

杏樹「宗匠…」

宗匠「杏樹が“本当に”望んでるなら、抱いてもいい。
でも、絶対後悔するだろ?お前」

杏樹「………でも、人恋しいのよね…」



宗匠「…………
……俺ん家、来る?」
グラスに残っていた酒を、クイッと飲み干した宗匠。

杏樹の頭に手を乗せ言った。
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