丘の上の大きな桜の木の下で、また会おう~After Story~
杏樹「━━━━お邪魔します」
宗匠「何もねぇけど、どうぞ」


殺風景な、ワンルームの部屋。
とても広い空間に、ポツンとベッドとソファとローテーブルがあるだけだ。

杏樹「ほんとに、何もないわね……(笑)」

宗匠「あぁ。だって、寝るだけの部屋だし」

杏樹「テレビは?」

宗匠「ねぇよ!ほとんど見ねぇもん」

杏樹「料理もしないの?」

宗匠「あぁ。外で食うか、買ってくるか、実家に行くかしてる。
だから冷蔵庫の中、水しかねぇよ」

杏樹「ここに、女性を連れ込むの?」

宗匠「は?女とヤる時は、ホテルに行くっつうの!
ここはこんなでも、俺の寛げる空間なの!
言っとくが、杏樹が初めてだぞ。
人連れ込んだの」

杏樹「鈴嶺は?」

宗匠「鈴?なんで、鈴を連れ込むの?」

杏樹「二人は、特別でしょ?」

宗匠「そうか?まぁ、妹みたいな感じだな」

杏樹「そうね。でも、なんか違うのよね…二人見てると。
鈴嶺って、何かあった時、一番に宗匠に電話かけて相談するでしょ?
鈴嶺、昔言ってたの。
“すぐに、宗くんの顔が浮かぶのー”って。
凱吾じゃなく、宗匠。
さすがに今は凱吾に一番に頼るし、鈴嶺は凱吾を本当に愛してるし、宗匠と鈴嶺が男と女としてどうってわけじゃないんだけど……」

宗匠「女としてっつうか……ほんと家族みたいなんだよなぁー、鈴は。
だから“ある意味”鈴が一番大事かも?
この前の、鈴が突き落とされたってやつ。
あの時、凄まじい怒りが込みあがった。
正直……あの女、殺してやろうかと思ったくらいだ」

杏樹「鈴嶺は、いいなぁー
そんなに、色んな人に愛されて……!
紀信も、鈴嶺が好きだし」


宗匠「………」
ポツリと言った杏樹に、宗匠は意味深に見つめた。

杏樹「何よ」

宗匠「鈴は、いつも真っ直ぐだからだ」

杏樹「え?」

宗匠「もちろん性格もあるが、あいつは天然で真っ白な代わりに、嘘がつけない。
その分、真っ直ぐ相手を見る。
それに鈴なら……凱吾の愛人になんかならねぇと思う。
凱吾の性格は置いといて、鈴なら……凱吾の嫁を傷つけることはしない。
………………だから、愛されるんだと思う。
杏樹は、後ろめたいことしてるだろ?
どんな理由があっても、お前は堂々とできないことをしている。
それをわかって、あいつと付き合ってる。
……………なのに、愛されたいなんてワガママだ」

杏樹「そうね……」

宗匠「で?どうすんの?」

杏樹「は?」


宗匠「━━━━━━それでも、ヤりたい?」
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