丘の上の大きな桜の木の下で、また会おう~After Story~
志田「━━━━でも…紀信くん、災難だったね(笑)
杏に付き合わされて……」

紀信「はい…」

お詫びにと、杏樹と志田に食事をご馳走になっている紀信。

杏樹「だから、謝ってるでしょ!」

志田「フフ…」
志田は、杏樹の頭をポンポンと撫でて紀信に向き直った。

志田「鈴嶺ちゃんだったら、良かったね!」


紀信「え?」

志田「え?思わなかった?
……………“この腕の中にいるのが、杏樹じゃなくて鈴嶺だったら”って!」

紀信「ま、まさか!?」

志田「君は、凱吾くんが憎いと思ったことないの?」

紀信「━━━━━!!!?」

志田の視線が、紀信に突き刺さる。

志田「だって“あの”羽柴 凱吾だよ?
鈴嶺ちゃん“しか”受け入れない、絶対零度の性格。
例え目の前で困ってる人間がいても、手を貸さない。
杏や紀信くん達と仲良くしているのは、あくまでも“鈴嶺ちゃんの為”
鈴嶺ちゃんの為なら、例えそれが“犯罪でも”躊躇なくやる」

紀信「………」

志田「彼、俺達裏の人間からも一目置かれててさ。
何て言われてるか知ってる?」

紀信「え?」

志田「“羽柴 凱吾には手を出すな”」

紀信「………」

志田「彼に手を出したら、こっちが殺られるってな。
しかも、凱吾くんは相手の一番嫌なとこをついてくる。
反論できないようにするんだ。
一番、タチが悪い」

紀信「そう…ですね」

志田「そんな奴に、鈴嶺ちゃんみたいな純真無垢なお姫様が囚われてる。
君は、奪いたいと思わないの?」

紀信「………」

杏樹「………
…………久史さん!もう、やめて!!」
杏樹は、紀信を見て悲しそうに瞳を揺らした。

志田「俺は!心配してるだけ!」
杏樹「だからって━━━━━━」

紀信「僕じゃ……」

杏樹・志田「え?」

紀信「僕じゃ、鈴嶺を幸せにできないからです」

紀信は、志田を真っ直ぐ見てはっきりした口調で言った。

志田「紀信くん…」
杏樹「紀信…」

紀信「奪いたいと思ったこと、あります。
凱吾が憎いと思ったことも。
でも、鈴嶺が言ったんです。
“私は凱くんと一緒じゃなきゃ、幸せになれない!”って」

杏樹・志田「………」

紀信「だから、奪うなんてできなかった。
やっぱり……鈴嶺には幸せになってほしいから……!」


紀信の言葉に、志田は“そうか…”と呟き微笑んだ。
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