丘の上の大きな桜の木の下で、また会おう~After Story~
執事と秘書
鈴嶺「━━━━ど、どう?」

杏樹「ダメ!!
やり直し!!」

鈴嶺「うー」

ある日のポカポカした平日。
鈴嶺は朝から、杏樹の料理の特訓を受けていた。

杏樹に天気が良いので、散歩でもしないかと言われ“じゃあ…お弁当を作ってピクニックしよう”という話になったのはいいが……

お世辞にも、美味しそうに見えない弁当を鈴嶺が用意したのだ。

杏樹に“ピクニックは中止!今日は、料理の特訓!”だと言われ、今に至るのだ。


杏樹「てか、鈴嶺。
貴女、味見しながらしてる?」

鈴嶺「へ?」

杏樹「やっぱり……」

鈴嶺「したことない…」

杏樹「次は、味見しながらやってみて?
そうやって、塩梅を加減するの」

鈴嶺「わかった!」


そして、何度か杏樹に指摘を受けながら………

鈴嶺「━━━━どう?」
杏樹「ん!美味しい~!」

鈴嶺「ほ、ほんと!?」

杏樹「ほら!あーん?」

鈴嶺「あーん…ん!ほんとだ!」

杏樹「でしょ?」

鈴嶺「これなら、凱くんに心から“美味しい”って言ってもらえるかな?」

杏樹「えぇ!きっと!」

鈴嶺「良かった……」
鈴嶺の瞳が少し、潤んでいる。

杏樹「鈴嶺?」

鈴嶺「凱くんね。
100%“美味しいよ”って言うの。
日によって辛かったり、薄すぎたりしてて、絶対美味しくないはずなの。
私自身が、残しちゃうくらいなのに……
凱くんは必ず、完食してくれるの。
無理しないでって言ってるのに、毎回美味しいよって無理して食べてくれる。
だから、申し訳なくて……」

杏樹「鈴嶺…
━━━━━━あ!そうだ!」
鈴嶺「ん?」

杏樹「フフ…
凱吾に、お弁当作って持っていきな!」
微笑む杏樹に、鈴嶺も大きく頷いた。



そして佐木の運転で、凱吾の勤める会社に向かった鈴嶺。

受付に、弁当を渡す。

「あ、副社長の奥様!
こんにちは!」

鈴嶺「こんにちは!
お忙しいところ、申し訳ありません!
こちらを、主人と住江さんに渡していただけますか?」
ランチバッグと、スープジャーを2セット渡す。

「はい!
あ、でも、副社長をお呼びしましょうか?」

鈴嶺「え!?いいんですか!?」
パッと表情が明るくなる。

「えぇ。今日は確か、あまりお忙しくないはずですので」

鈴嶺「じゃあ…ご迷惑じゃなければ、お願いします!」

「フフ…わかりました(笑)」

分かりやすく鈴嶺の表情が変わったので、受付の社員はクスクス笑いながら内線をかけた。


椅子に座り、待っていると…………

凱吾「鈴嶺!!」
と、嬉しそうに凱吾が駆け寄ってきた。

鈴嶺「あ、凱くん!」

凱吾「鈴嶺…鈴嶺…」
抱き締め、噛み締めるように鈴嶺の名前を呟く。

鈴嶺「フフ…
凱くん、忙しいのにごめんね!
住江さんも、わざわざ呼び出してごめんなさい」

住江「いえ!
大丈夫ですよ?」
凱吾「でも、どうしたの?
また僕、忘れ物した?」

鈴嶺「ううん!違うの!
二人に、これを……」

凱吾「ん?弁当?」
住江「二人にって……」


鈴嶺「凱くんと住江さんに作ったの」
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