仮面夫婦とは言わせない――エリート旦那様は契約外の溺愛を注ぐ
それから一週間後、私は例の女性誌『ワン』の撮影で都内のスタジオに入っていた。
写真撮影だけとはいえ結構手間なので、若菜にも手伝いに入ってもらっている。

「夕子、八田さんが夕子に会いたいって言ってるんだけど」

撮影を無事に終え、完成したメニューをスタッフ全員でたいらげているときだ。若菜が急にぼそりと言った。

「ハッタサン」
「忘れてるわね。先週話した弁護士さん。結婚相手を切実に探してるイケメン」

そういえばそんな話をした。私はイメージ戦略的に結婚を口にしたけれど、若菜が話を進めているところを見るとその八田さんの方は本気度が高そうだ。

「夕子の動画、見たことがあるって。結婚に興味があるなら、一度会いたいって結構熱烈に言ってるの。夕子の意見を聞く前で悪いんだけど」

おそらく若菜は仕事が片付いてから、この話をしようと思っていたのだろう。しかし、まだスタジオで編集者や撮影クルーもいるんだけど。

「待って、待って。私、まだそこまで真剣に相手を探してない」
「八田さん曰く、『損はさせないから話だけでも聞いてほしい』って」
「悪徳商法みたい」
「いやあね、弁護士さんだから大丈夫よ。テレビに出てる人だし、仕事ぶりと人間性はうちの旦那が保障する」

若菜は言うだけ言って、腕時計を見た。

「詳細は今夜にでもメッセージ送るわ。さて、食べて撤収ね。私はこの後用事があるから、時間通りあがりたいわよ」

なんともあっさりした若菜の態度に、私はそれ以上ツッコむことができなかった。
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