仮面夫婦とは言わせない――エリート旦那様は契約外の溺愛を注ぐ
そうこうしているうちに若菜からメッセージが届いた。
セッティングされた日にちはまさかの明日。私のスケジュール管理をしているだけに仕事が早い。むしろ、断れない状況を作られてしまった。
私も丸め込まれるほど単純な人間ではないし、ちょっとでも妙なところがあればすぐに帰ろう。相手も世間体があるだろうから、しつこくはしてこないはず。

そう思いながら、私はウォーキングクローゼットに向かっていた。どんな相手にせよ。男性と食事なんて久しぶりなのだ。イメージ通りの桜澤夕子で行かないと。



翌日、約束の十九時に私は都内のホテルにやってきた。最上階のラウンジが待ち合わせの場所。初回からかなりデートっぽいところだなと思う。
黒のロング丈のワンピースに秋物のジャケットという格好できたのは正解だった。気合を入れすぎているようにも見えないし、お店の格にもちょうどよさそう。

ウエイターに案内されたのは夜景の綺麗な席だ。カップルシートのようで横並びに座るスタイル。彼は先に来ていた。

「こんばんは。今日はありがとうございます、桜澤さん」

私を見てさっと立ち上がった八田史彰さんは、ネットで見たままの美形だった。いや、本物はもっと綺麗で格好いい。背の高さも胸板の厚さも近づいてみるとまざまざと感じられる。
そして、声がいい。よく通る身体の芯に響くような甘い声なのだ。
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