仮面夫婦とは言わせない――エリート旦那様は契約外の溺愛を注ぐ
「……失礼ですよ。いきなり相手を物差しで測るような言い方をして」

私が腰を浮かせかけると、慌てたように八田さんが言った。

「申し訳ない。うまい前置きではなかったですね。俺が言いたいのはこうです」

すると、彼は私の方向に向かい斜めに座りなおし、拳を膝にのせるとがばりと頭を下げた。

「とてつもなく困っています。どうか、俺とメリットのある契約結婚をしてくれませんか?」
「けいやくけっこん」

私はおうむ返しをして、首を傾げた。いきなりドラマのようなワードがでてきたのだから、当然だろう。

「伍代社長の奥様に伺いました。桜澤さんは、料理研究家としてイメージアップのために家庭を持ちたいんですよね」
「え、ああ、はい」

伍代社長の奥様というのは若菜だけれど、そこまで話していたのかと焦る。最初から欲得ずくで相手を探していたというのは感じが悪い女に見えないだろうか。
彼は彼で、真剣な顔で私を見る。

「俺もイメージアップを図りたいんです。こう、その……見た目で俺はかなり損をしていまして」
「損ですか? 失礼ですが、とても整っていらっしゃるから損をするようには見えないのですが」
「あの……昔からチャラいと言われ続け……そこが損と言いますか」

そう言って、八田さんは恥ずかしそうに背を丸め、うつむいた。

「髪色も目も、イギリス人の祖母の遺伝なんですが、幼い頃から女性ウケがよく、周囲からも勝手に遊んでいるイメージを植え付けられ、苦労しました。反発するように猛勉強して司法試験に受かったわけなんですが、上司命令でテレビに出るようになり、また“チャラい”とレッテルを張られてしまいました」
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