仮面夫婦とは言わせない――エリート旦那様は契約外の溺愛を注ぐ
2. 仮面夫婦の新婚生活
私と八田史彰の結婚はウェブニュースを少しだけにぎわせた。
動画配信者の料理研究家と、テレビにも出ているイケメン弁護士の組み合わせだ。芸能人ではないけれど、メディア露出があるので知名度はふたりともそれなりにある。世間からはスペックも容姿もパーフェクトな夫婦と持ち上げられたものの、世の中の誰も私と彼が契約結婚をしたとは知らない。
若菜とご主人の伍代社長くらいじゃないだろうか。私たちの結婚の真相を知っているのは。
双方の両親すら「こんな素敵な人とお付き合いしていたなんて」と手放しに喜んだくらいである。
身内とわずかな仕事関係者のみを招待した結婚式を終え、ハネムーンは多忙を理由に止めた。式後、すぐに史彰が我が家に引っ越してきた。
理由は私が撮影環境のキッチンを変えたくなかったのと、私のマンションの方が銀座の彼の職場に近いからだ。
季節は初冬を迎えていた
「夕子、おはよう」
今日も朝食の準備を簡単に整えていると、史彰が起きだしてくる。寝室は別、それ以外は共用にしているけれど、キッチンは私の仕事場でもあるので、史彰は尊重して冷蔵庫や水道を使うときしか入ってこない。
「おはよう、史彰。朝ごはん、昨日の撮影の残りでいいかな」
「あー、助かるよ。ゆうべ、ごめんな。食べられなくて」
私が出したニース風サラダと真鯛のハーブソテーは動画に使用したもので、昨晩の彼の夕飯の予定だった。しかし、急な打ち合わせが入って食べられなかったのだ。
「朝からがっつりで悪いわね」
「昼休憩が遅くなりそうだから、全然平気。俺、朝からカップ麺食べられる方だし」