仮面夫婦とは言わせない――エリート旦那様は契約外の溺愛を注ぐ
私は家で動画撮影や編集、外では雑誌の撮影や打ち合わせ。
史彰は毎日職場の弁護士事務所に通い、たまにテレビ収録に参加している。

食事は食べられるときは一緒に食べている。なにしろ我が家には常に食材があるし、私が撮影で使った料理は私本人が食べるか若菜が持ち帰ってくれなければ余るのである。
史彰は何を出しても素晴らしい食欲でたいらげてくれる。そんなわけでフードロスを防ぐのにも、史彰の存在はありがたい。

「あ、夜でいいんだけど俺も夕子と一緒の写真撮りたい」

口いっぱいのサラダを呑み込んで、史彰が思い出したように言う。

「夜でいいの? 必要なら今から急いでメイクするけど」
「今日動画撮るんだろ? そのときメイクするだろうから、急がなくていいよ。明後日、俺の方がハイローの収録なんだけど、共演者たちが奥さんの写真ないのかってうるさいんだよ。桜澤夕子チャンネルを見てくれって言ったんだけど、もっと素の感じが見たいって」

私はマグカップのカフェオレをごくっと飲み、うなずいた。

「オッケー。新婚夫婦っぽくふたりで晩酌してるところなんかどう?」
「それ、いいシチュエーションだね」

メディアや視聴者への仲良しアピールは大事な仕事で、私と彼の共同作業。こうしてお互いのイメージを家庭的なものに変えていきたくて私たちは結婚したのだ。
視聴者をだましているのかもしれない。でも目に映るもので判断して、私たちにレッテル貼りをする人たちに、誠実さだけで太刀打ちできるだろうか。

これは正当な経済活動の一環。
それに友情婚っていうものもあるし、何も恋愛だけが男女の婚姻制度のすべてではない。私は史彰との生活はなかなかいいと思っている。この結婚は正解だ。

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