仮面夫婦とは言わせない――エリート旦那様は契約外の溺愛を注ぐ
その晩、私はSNS撮影用に見た目のいいおつまみをいくつか作り、史彰の帰宅を待った。

帰ってきた史彰ととりあえずの夕飯にとりそぼろ丼を食べ、メイクをわざとナチュラル系に直し、可愛いルームウェアに着替えてソファにつく。リビングのテーブルにはおつまみの数々。ブルスケッタ、ピンチョス、グレープフルーツとルッコラの生ハムサラダ……。
照明を少し落とし、三千円程度のハウスワインを開けて撮影準備万端だ。

「なあ、夕子。雰囲気作り完璧だけど、おつまみがおしゃれ全開のオードブルじゃないか? そこはいいのか?」

シャワーを浴び、ルームウェアに着替えてきた史彰が、私を見て尋ねる。

「確かに……」

ついいつもの癖で『働く恋人たちのふたりきり時間』を演出してしまった。ここはもっと庶民的なおつまみにすればよかった。でもそれじゃあワインに合わない気もするし、やっぱり撮影の映り的にも……。
ぐるぐる考えている私の肩をぽんと史彰がたたく。

「悪い。混乱させた。いいんだよ、俺と夕子が仲良く晩酌してたら『ぽい』だろ」
「そ、そうだよね!」
「次回は日本酒と干物なんてどう?」
「さすが、史彰。その案、いただき」

自分の芯に染み込んだ『カメラ映え』ねらいの意識に、若干嫌悪を覚えつつ、史彰のフォローに立ち直ってソファについた。

「じゃ、かんぱーい」

インカメラに切り替えて、ふたりで乾杯している写真や、私と料理が映るような写真を何枚か撮る。
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