仮面夫婦とは言わせない――エリート旦那様は契約外の溺愛を注ぐ
史彰はSNSの運営は最低限しかしていない。弁護士としては、あまりプライベートを公開したくないのだろう。
だから、この写真はあくまで周囲へのアピールに使用される。愛妻家らしく振る舞う材料なのだ。
もちろん一部は私がSNSにあげるつもりだけど。

撮影が終わると、史彰は気が抜けたように表情を緩めた。それからぱくぱくと料理を平らげていく。

「それにしても、夕子の料理は本当にうまいなあ」

史彰は私より三つ上。食欲は二十代男子と遜色なく、とにかくよく食べる。

「どーも。仕事だからね」
「仕事じゃない料理もうまいよ。さっきのそぼろ丼も好き。しっとりしてて甘くて。めちゃくちゃごはんが進む」
「おかわりしてたもんねえ」

苦笑いして答えながら内心史彰の言葉が嬉しかった。私が評価されたい部分を知って褒めてくれているのかもしれないけれど、夕食を平らげた食欲に嘘はないと思うもの。

「今度けんちん汁を作ってよ」
「いーわよ。明日でよければ」
「え、明日作ってくれるの? やった。……あ、もうひとつお願い。次の週末、ちょっと買い物に付き合ってほしいんだ」

私は首をかしげた。買い物のお誘いは初めてだ。

「私も同行した方がいい買い物なの?」
「いや~、実は週刊誌に撮られるために」
「はぁ?」

私は聞き返したものの意味がわかって笑ってしまった。

「仲良し新婚記事を書いて欲しいのね、週刊誌に」
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